25 May 2016

最近観た展覧会と、好きなことば

 一昨日は、沼津と三島でよい展覧会を観た。

 ひとつは weekend books さんで開催中。「3/22」さんという作家の方による「星を撒いた街」です。厚紙や板切れに描かれた、独特の不思議な世界で、weekend books の雰囲気にぴったり合っていて、見応えのある展覧会。




 ロベルト・クートラスへのオマージュ、稲垣足穂の世界を彷彿とさせる宇宙、西洋の宗教画、またタイル画のようなゆるやかなタッチの作品と、夢見るように拝見しました。赤いニット帽をかぶったクートラス? 小さなオブジェをひとつ頂いた。イコンのように、大切にしよう。

 いつものように高松夫妻といろんなお話をして、今夜はいい夢が見られそうだゾと思って寝たら、ほんとうにいい夢が見られたからスゴイ。

 以前、女優のジェニー・アガターがラジオで、アイルランドを旅した時の想い出話をしていた。朝起きて、ニュース・エイジェント(イギリスやアイルランドにある、街のコンビニみたいな商店)へ新聞を買いに行ったときのこと。お勘定をする際、「いいお天気ですね」でも「今日はどこへ出掛けられますか?」でもなく、店主がこう尋ねたと言うのです。


 「昨夜はどんな夢を見ましたか?」

 
 アイルランドは一人旅をしたから、彼女が言わんとすることが瞬時に分かった。weekend books さんは、私にとって沼津のアイルランドかもしれない。私だけではなく多くの人にとって、どんな季節にも温かな灯のようなお店なんだって、この展覧会を観てあらためて思ったのでした。

 もう一つの展覧会は、三島信用金庫の本店(建物、一見の価値あり)の、最上階にある「善」というギャラリーで今日まで開催されていた、絵本作家の鈴木まもるさんによる「鳥の巣ワールド」。ご覧のように、まるで前衛芸術家のインスタレーションみたい。入口からもう、胸が高鳴りました。
 



 鳥の巣を求めて、世界中を旅しておられる鈴木さんの鳥や巣の絵には、きめ細かい愛がいっぱいで、コケやワラの一筋一筋にも、自然の意志が描かれているのを感じました。鳥の巣の丁寧な説明も同じく。小学生の頃ずっと購読していた、学研の雑誌「科学」を開いたときのトキメキがよみがえるようで。

 鳥たちが、どんな工夫を凝らして伴侶を見つけ、巣をつくり、卵を産んで子育てをするか。クモの糸が接着剤の代わりを果したり、葉っぱを縫いとめる文字通りの糸であったり、蛾の繭が毛布になったり、求愛のためだけに立派なあずまやを建て、そこに美しいものをコレクションしたり、茶室のしつらいみたいな上品な造形があったり、またそれらがどれも美しいこと! それぞれの鳥たちの、必死の必然の結果だからですね。

 好きなベニシア・スタンリー・スミスさんの言葉、


   「正しいことをやったら 心が軽くなる」


 鳥たちは、この言葉の通りに働くのでしょうか。心が軽くなければ、飛ぶこともさえずることも出来ないでしょうから。
 



 最近昼間は、BBCのラジオからMDに録音した小鳥のさえずりを繰り返し聴いています。ブラックバードとナイチンゲール。一日の終わりには、時々ウクレレを取り出して、ビートルズの名曲「ブラックバード」をハミング。もちろん家族やご近所の迷惑を考え、小さな小さな内緒話みたいに歌う。

 そしたらインスタグラムのお友達、スコットランドのある方がこんなことを書いていた。

   
   赤ちゃんを寝かしつけるため
   世界中のどこかで、いつも、誰かが、   
   子守歌を歌っているんだって思うと、
   心がなぐさめられやしませんか?


 ブラックバードの譜面の載った本の写真がUPされています。シンクロニシティ! そしてそうか、この曲はララバイなんだと、初めて知りました。今夜も子守唄を歌う気持ちで、細くひそやかに・・・。

 ついでに、ブラックバード(クロウタドリ)のほがらかな口笛のようなさえずりは、春から夏は昼間ばかりでなく、夜も夜中も耳にします。あの歌詞の通りなんです。


22 May 2016




中島京子さんの新刊

 4月にお贈り頂いた『彼女に関する十二章』。すぐに読み始め、途中ちょっと色々あったからお休みして、また読んで、途中のお休みを抜かし延べ日数にしたら、あっという間に完読。これはいつもちびちび読みの私にしたらとても珍しいこと。大きな車輪の自転車を、5月の風を浴びてぐいぐいこぐように、気持ちよく拝読しました。

 冒頭から面白い。誰とは言いませんが、最近毎日の話題をさらっている某氏、・・・を思わせるヒトが出てきたりする。

 京子さんの書かれるものの多くに登場する、シットコム的笑いや風刺のひと匙ふた匙(時にはみ匙)が、私はとても好きなのです。この物語にも全編にそのスパイスが効いていて、読み終えた時、まるで愉快な列車旅の終着駅に、えー、もう着いちゃったのー、みたい。清々しいけどちょっと寂しくなったりする。

 主人公の「彼女」は私よりちょっと若い、京子さん世代の一般女性。よかったらぜひ手に取ってください。アマゾンへはこちらから。


 追伸: 某氏の今のあの話題は、書かれた頃には知られていなかった、にもかかわらず、この本の内容の大事な縦糸の一筋にガッチリ符合しているように思えて、さすが作家はすごいことをなさる。ブラボー、京子さん!
 

21 May 2016



絵を描くこと

 もうだいぶ前に、UK版 Country Living に描いたイラストレーション。他のページのレギュラーもあり、水彩のみで描くスタイルとは変えて描いてほしいとアートディレクターから言われ、ペン画で試みたもの。短いシリーズでしたが愉しく描かせてもらった。表面のラフな水彩紙に、細いペンが引っ掛かる。カリカリ描く感触がちょっと快感の技法です。

 ペンでドローイングして水彩でサッと色を着ける絵は、18世紀にウィリアム・ホガースが活躍し、銅版画でカリカチュア(風刺画)が盛んに描かれた時代の名残なのか、イギリスのイラストレーターに多いスタイルだと思う。恩師である絵本作家のキャロリン・ダイナンも、彼女の夫のロイ・スペンサーも、ドローイングの名手でした。

 彼らのヴィクトリアンの広い家を今思い浮かべると、玄関ホールやダイニング、シッティングルームにはもちろん、トイレやバスルームにまで、額装した作品が飾られていた。脱衣室ではなくて、バスタブのあるバスルームに、です。雨は多いけど、日本みたいに湿度の国と言うわけじゃないので、そんなことも出来ちゃうんですね。

 キャロリンの教え子のイラストレーターの作品が、ダイニングルームに一点飾ってあった。すでに何冊か絵本の仕事をしていて、私も本屋で観たことのある画家でした。彼女の絵は、どれも右に傾いている。右利きの人が絵を描くと、デッサンが少し右に傾くものですが、少しと言うよりははっきり傾いている。

 その絵を観たとき、絵を描くことの自由を思いました。日本に居た頃、次々と仕事をこなし、「こうであらねばならない」方向へ自らを追い込んでいた自分に、「どんな絵だっていいんだ。その絵に力があれば」と、教えてくれた絵。そんなことを、先日の沼津クラスでお話した。

 幼い子どもたちは何も考えずに、いきなり白い紙に色をこすりつけて行く。大人のように「よく見せたい」なんてみじんも思わず、美しい色の粒子が刻々紙に着いてゆく快さのみをよろこぶ。その感覚を忘れたくないといつも思います。絵に備わる大きな力は、まさにそこから生まれると思うからです。

 HIRO'S ART CLASS でも、6月から、今までよりも水彩やドローイングに重点を置いてやってゆきたいと思っています。ご安心ください、コラージュの技法も加えながら、です。まずはサマー・グリーティングから。小さな作品を、ゆっくり練習してゆきましょう。
 

5 May 2016



手仕事の生まれる場所

 最近は以前ほど多くのブログを読むことは無くなりましたが、Instagram で内外の、「同胞」と呼びたくなるような人たちとの「わー!」とか「えっ?!」とか「スゴイ!」のような短文交流が面白く、また内容にボリュームのあるものでは、山本ふみこさんの「ふみ虫、泣き虫、本の虫。」が、愉しみなブログのひとつです。

 先日の「孤独の研究」というタイトルの一文には、同世代(生まれた日がわりに近いことをいつだったか知った)という事もあるかと思う。とても共感し、こういうことを丁寧に書いて下さる山本さんに、感謝の思いが湧き起こりました。「私もそうだよ、同じだよ。わかってるから、大丈夫だよ」と、肩を叩いてもらったような思いがし、温かな光を感じました。私もこの春は、きつかった。考えたらここ数年、春は明るいだけではない。

 「ぶれない」という言葉に憧れはあるものの、心の奥に、いつもゆらゆら揺れるトライアングルが持てあまされている。最後にあった「孤独」と「手仕事」が自分を支える、という言葉を読んだとき、それが「チーン」。高く澄んだ音を立て、一瞬静止した。

 青木さんとのトークイベントのタイトルも、「手仕事の生まれる場所」。それはけっして特別な場所のことではなくて・・・。

 さて、event のページにも書きましたが、6月5日のご参加人数が、有難いことに定員に達しました。受付を終了させて頂きます。多くの方からお申込みを頂き、キャンセル待ちの方もおいでです。興味を持ってくださった皆さんに、心からお礼申し上げます。

 ご案内は近々お葉書きでお送りいたしますので、もう少々お待ちください。きっとよい会になると思います。

 写真は朝一番の手仕事。少し前にこのハリオの薬缶を手に入れてから、コーヒーを淹れる時間が至福の日常となりました、の図です。

1 May 2016



5月のレッスン

 4月のスタンプワーク、大好評で、INSTAGRAM をなさっている何人かの方が、お家で完成された作品を公開してくれた。うれしく拝見しました。 

 今月は「スタンプ、後編の巻」です。ブルー系のインクで連続模様を作ってみましょう。ラッピングペーパーと紙の袋などを制作します。(紙の袋、ちょっと面白いことを考えてます。乞うご期待!)

 その準備に、ロールペーパーを用意しました。それとインクを明日発注。ウッドブロックも人数分を準備します。

 こんな生活を30年以上も続けていますと連休というものに無頓着で、インクパッドの注文のことをうっかりしていました。数が多いので、早めに調達しないといけません。急に焦っています。

 本日いっぱいまでお待ちします。お申込みがまだの方は、ぜひご連絡ください。

 写真に写っている黄ばんだ本は、20代の頃イギリスで買ったもの。おそらくソールズベリー大聖堂、またはヨーク大聖堂・・・、あたりのショップで購入したんだと思います。イギリスの教会の床を飾るタイルの図案集です。きっと何かの役に立つ、と思って買ったのだと思う。ずいぶん時間がかかりましたが、やっぱり役に立ちました。

 水彩は、久し振りに Country Living での小さなイラストレーションから、何か描きやすそうな季節の絵柄をお教えしたいと思っています。

 沼津レッスンは、そろそろ11月のグループ展の準備にも取り掛かりましょう。沼津、東京ともに、グループ展のお申込みのほうも、まだの方はよろしくお願いします。

 持ち物については、また近日中にお知らせいたします。

 以上、ギョーム連絡でした。

 なお、6月5日の青木和子さんとのトークイベント、おかげさまで残席が僅かとなってまいりました。ご希望の方は、このページの上の方の 'event' をご覧の上、ぜひお早目にお申し込みください。

 まわりくどーいお申込み手順ですが、このBlogger に直接私のメールアドレスのリンクを貼ろうとしたら、「スパムメールの危険度が高まる」との Google 直々の警告。なので、メールについては今まで通りに Website からお願いいたします。